本棚に、
最後まで読まなかった参考書がある。
表紙は少しだけ古くて、
角が少し曲がっている。
最初の章には、
線が引いてあって、
ところどころに、
小さなメモも残っている。
読もうとしていたのは、
間違いない。
でも、
途中で止まっている。
だんだん文字が多くなって、
説明も細かくなって、
ページをめくる手が、
自然と遅くなる。
わからないところを、
何度か読み返して、
それでも頭に入らなくて、
そのまま閉じた。
今なら、
その場で調べれば、
もっと簡単な説明が見つかる。
AIに聞けば、
要点だけを、
すぐに教えてくれる。
最後まで読まなくても、
目的は、
だいたい達成できる。
便利になったな、と思う。
それは正直な気持ちだ。
でも、
最後まで読まなかった参考書には、
途中で投げ出した、
自分の時間が挟まっている。
理解できなかった時間、
考え込んだ時間、
眠くなって、
ページを閉じた夜。
内容は、
今ではもう、
ほとんど覚えていない。
それでも、
あの本を開いていた時間だけは、
なぜか、
はっきり思い出せる。
最後まで読まなかったことは、
失敗でもなく、
成功でもない。
ただ、
勉強していた途中で、
立ち止まった、
その記録だ。
今日もその参考書は、
本棚の同じ場所にあって、
続きを読む気配もなく、
静かにそこにいる。
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